毎日彼女に手を振り続けて早くも二週間が経った。
相変わらず彼女は俺には興味がないみたいだ。
また一度もこっちを見てくれようともしなかった。
今日もいつもみたいに見てくれないのかもしれない。
駅に近付くと彼女の姿を一番に見つけた。
やっぱり今日もいつもの友達と一緒にベンチに座って本を読んでいた。
声を掛けようとしたその時、他校の女の子達数人が彼女達を囲んでいた。
「ちょっとアンタ、毎日森村くんが手を振ってくれてんのに何無視してんのよ?」
「あの人が勝手にそうしてるだけじゃないですか」
「はぁ?」
「私、手を振って下さいとか頼んだわけでも無いですから」
「調子に乗るんじゃないわよ!!」
ガシャーーン!!!
1人の女の子が手を振り上げた時を見計らうように、俺は金網を思い切り殴った。
「やめろよ!彼女の言ってる事は本当だ!俺が勝手に彼女に言い寄ってるだけだ!
彼女をイジメたりなんかしたらお前らゼッテー許さねぇぞ!!」
すると女の子達は静かになり、彼女達前から身を退いていった。
「大丈夫?ごめんな、なんか巻き込んじゃって」
「少し驚きましたが、大丈夫ですから」
そう答えたのは彼女ではなく、彼女の友達の方だった。
彼女は特に驚いた様子もなく、電車が来たと同時に立ち上がった。
するといきなり彼女と目が合い、俺は驚いたと同時に胸もドクンと大きく高鳴った。
なんだかとてもドキドキした。
「ありがとう…ございました」
彼女は小さな聞き取りにくい声で一言だけそう言い残し、すぐさま電車に乗っていってしまった。
俺は呆然として目の前に通過する電車を眺めていた。
彼女が俺を見てありがとうと言ってくれた。
未だに信じられなくて、俺は自分の頬をきつくつねってみた。
「いひゃい」
本当にこれは夢じゃない。
頬の痛みがそれを実感させてくれる。
「夢じゃないんだ!!」
俺は空に両手をあげて思い切り大声で叫んでしまった。
それほど嬉しくて嬉しくて頭がおかしくなりそうだった。
けれどその幸せは、あまり長くは続かなかった。
彼女の態度は次の日からいつもと変わらない態度に戻ってしまっていたのだ。
彼女に手を振っても全く反応はなく、こちらを見てもくれない。
というよりもまた最初に出会った頃に戻ったようだった。
だけど俺は諦めずにそれでも毎日根気よく手を振っていたせいか、彼女の友達が俺に手を振ってくれるようになった。
それだけでも俺にとっては大きな前進。
俺と彼女の隙間は少しだけど縮まったようにも思えた。
けれど彼女に同じ態度を取られる度に、実は本当に俺の事を興味のないのかもしれないと怖気付いてもくる。
やっぱり彼女は俺の事を好きにはなってくれないのかもしれない。
「こっち…見ろよ…」
今、俺はどんな顔をして彼女達に手を振ってるんだろう。
いや、きっと全然笑ってなんかいないはず。
だって彼女がこっちを見てくれないってただそれだけの事で胸がこんなにも苦しくて、
こんなにも寂しくてたまらない気持ちでいっぱいなんだから…。
「今度は何よ?昨日まではあんなにニヤニヤして気持ち悪かったのにこのギャップは一体何?」
俺はヒメの隣で気の抜けたようにボーッとしていた。
「女の子の気持ちが全然分かんねえ。目も全く合わせてくれないし。なんでだろうな」
「目が全く合わないのもなんか変よね。森村くんに全く興味が無いなら、普通は目くらい合うじゃない?
それって森村くんを意識してるんじゃないの?」
「はぁ?」
「ていうか森村くん、好きな人が出来たんだね」
「す、す、す、好きな人だって!?何言ってんだよヒメ!」
するとヒメはクスクスと笑い出した。
俺は笑われた事に対してイジけて口をとがらせた。
「そんなに動揺しなくていいじゃない。森村くんの事なら私にはなーんでも分かるんだからね。
最近の森村くん、なんかキラキラしてるよ。それにいっつも彼女の話ばっかりしてるんだよ。
自分でも気が付いてる?それでもその子を好きじゃないって言える?」
ヒメに言われて、俺は自分の気持ちを改めて考えてみた。
好きって気持ちが自分に中にあるかどうかは別として、俺は彼女を意識してきているのには間違いない。
けれど、それは好きかって聞かれても実の所はピンとこない。
「……」
「黙るって事は図星なんだ?」
「彼女を好きとか、そんな風に考えた事はないよ」
「まぁ今はそれでもいいじゃない?ゆっくりでいいんだよ」
振り向かせてみたいって、ゲームみたいに軽い気持ちでナンパをした。
でもよく考えたら、俺って意外に本気で彼女を好きになりかけてるんじゃないかって思えてくる。
彼女が自分自身を見てはくれなくて、虚しくなったり、悲しくなったりして、
よく考えてみれば、知らない間に俺の頭の中は彼女の事でいっぱいだった。
「そっか…。俺、彼女の事好きだったんだ…」
ヒメとかにいつも鈍感だとか言いながら、実は一番鈍感なのは俺の方だ。
でも、今の俺じゃ彼女に気持ちを伝えるなんてゼッテーに無理だ。
「俺、自信ねぇよ。ホント、今の俺じゃ無理なんだよ」
「何それ、森村くんの気持ちってその程度?だったら最初から相手になんかしなければ良かったのに。
その子に失礼だよ。それに無駄な時間過ごす事にはならなかったなじゃない。
まだ始まっても終わってもいないのにダメだとかもう諦めるんだ?そんなの森村くんらしくないよ」
「そうだな。でも告白する前に気が付いて良かったんじゃねぇの?」
廊下に知らない間に氷室が立っていた。
「玲一、いたんだ。気が付いたって何に?」
「今のコイツ、クサっててカッコワリィ」
「はぁ!?」
俺はカッとなって氷室の服をわしづかみをした。
「森村くん!」
殴ろうかと思ったが、ヒメの一言で留まった。
「殴りてぇんなら殴れよ」
俺は氷室を振り払って学校を後にした。
氷室の言葉が痛いほどに胸に突き刺さった。
そう、俺は逃げてばかりで自分の気持ちをきちんと伝えてすらいなかった。
氷室にクサってるって言われても仕方ないと思えるくらいどうしようもない俺。
きっとこんな俺だから好きになってもらえなくて当然なんだ。
「森村さん」
「何で…」
校門の前に彼女が立っていた。
見間違えかと思い、実感が沸かなかった。
「お話があったので来ました。お時間よろしいですか?」
「ここじゃマズイ。移動しよっか」
俺達は学校近くの公園へ移動した。
俺はベンチに座ったが、彼女は立ったままだ。
「座ったら?」
「いいえ、すぐ済みますから」
「話って?」
「前から言おうと思ってたんですが、帰り際に手を振ったり大声で呼んだりするのやめてくれませんか。
名前を知りたいなら教えます。なのでもうやめて下さい。迷惑なんです」
「ごめん…。もう関わらないから」
―――まだ始まっても終わってもいないのにダメだとかもう諦めるんだ?
その時、ヒメの言葉を思い出した。
俺、また逃げてた。まだ始まってもいないのに…。
「いや、今の撤回して。俺、君の事もっときちんと知りたい」
「からかわないで下さい!」
「からかってなんかいない!本当は最初はそのつもりだったけど今は違う。
君を好きになったんだ。君が好きなんだ」
「私は森村さんの周りにいる女子みたいにノリなんかで付き合ったりなんかしないんです」
「君とあの子達とは違う!俺、本気なんだ。俺って告白される事はしょっちゅうだけど、
告白するのは君で2人目なんだ。初恋の人と君だけ。本当だよ」
「そんなの嘘」
「嘘なんかつかない!本当なんだ。こんなにマジになったのは…本当なんだ」
「私は、相手の事知らないのに付き合うとか無理です。お友達からでいいなら」
「マジで?」
「はい、マジです。その代わり、もう叫んだりしないって約束して下さいね」
「する!絶対する!!」
すると彼女はいきなりくすくすと笑い出した。
俺はなぜ笑われたのか分からなくて唖然とする。
彼女はすっーと俺の目の前に手を差し出した。
「私は、藤咲サクラサルです」
「サクラちゃん?」
「ちょ、ちょっといきなり名前で呼ばないで!」
「いいじゃん、俺ら友達なんだし」
「ダメです!!」
「サクラちゃん、これからもよろしく」
俺はサクラちゃんと握手をした。
サクラちゃんは俺に満面の笑顔で微笑んでくれた。
俺はサクラちゃんを駅まで送り、駅までの数分でいろんな話をした。
話しても話しても全然話し足りないくらいだ。
電車が来て、すぐにお別れの時間になった。
「それじゃあ、また」
「うん。また明日ね、サクラちゃん」
電車の外から俺はいつもみたいに大きく両手で手を振った。
するとサクラちゃんが初めて手を振ってくれた。
ようやく俺達は晴れの友人関係になれた。
「ヤバイ…マジで嬉しいんだけど」
電車が見えなくなった時、俺はニヤニヤする口を通行人に見られそうになり、しゃがみ込んで緩みまくった口を必死に隠した。
サクラちゃんの名前を知るまでにいろいろあったこの一ヶ月。
こんな俺にもようやく春が来たらしい。
END
いかがでしたか?おめでとうございました。